7 TAについて
 本校における「情報」の授業実践に際して、東京学芸大学の学生および大学院生がティーチング・アシスタント(以下TAと略す)として授業支援を行っている。ここでは、その活動の実際と有効性について述べる。

7-1「情報」授業に対するTA導入の背景
(1) 本校卒業生によるネットワーク管理と運営補助の実績
 1997年度および1998年度の2年間に渡り、本校卒業生が本校ネットーワークの管理や生徒用端末のメンテナンスなどを行い、教育工学委員会の活動をサポートしてくれていた。彼の活動は教育工学委員会にとって大変有用であっただけでなく、彼自身の学習機会としても有効であったといえる。東京学芸大学からTAを迎える以前から、その受け入れる素地は構築されていたといえる。
(2) 学生に教育実習とは異なる実践学習の場の提供の可能性
 本校は、教育実地研究の実践と研究の実績がある。しかし、その実地研究は長くとも3週間であり、学生にとって指導教官や生徒とやっとコミュニケーションが取れてきたところで、実地研究が終了してしまうのが実情である。今回のTAは1年間に渡っての授業支援を行うことを考えると、従来の教育実地研究とは教官や生徒とのコミュニケーションもより深まり、TAにとっては貴重な教育実践の場面を与えることができる。また、関係教科の指導内容の研究もより内容の濃いものとすることが可能であると期待された。
(3) 「情報」の専門的な内容に関する大学教官の特別講義の必要性
 本年度から開始された「情報」の授業は、前述の通り様々な教科の教官のティームティーチングによって実施されているが、「情報」の専門的な内容(情報倫理や情報理論)に明るい教官は多くない。現場教官が専門としない専門的な内容を大学教官による特別授業として実施できないかと考えた。(2)と併せて大学教官による特別講義は、附属学校の特色を生かしてこそできるものであり、教育系大学における附属学校の存在意義をも示すものとなる。
(4) 情報試作教科書やWWW教材など、IPA検証実験の協力依頼
 1998年度に情報授業の可能性を検討しているときに、情報教科書やそれに関連するWWW教材の検証実験に関する協力依頼があった。このことに関連して、東京学芸大学の数学・情報科の山崎謙介教授、情報処理センターの伊藤一郎講師から大学における情報TAを高等学校の情報でも活用できないかという申し入れがあり、何回かの打ち合わせを経て、本校におけるTAが実現した。

7-2 TAの配置
 各クラス週1時間、8クラスで延べ8時間の「情報」授業の支援者として、東京学芸大学の大学院生1名、学部4年生3名の合計4名が交代でTAを勤めることになった。全員がすでに教育実習の経験をもつ学生である。TAを推薦していただくにあたり山崎教授や伊藤講師にお願いしたことは、
(1) 同じクラスの授業にはできるだけ同じTAが参加できるように調整してほしい。
(2) 事情がない限り、TA活動を休まずに1年間継続できる人材を送ってほしい。
以上の2点である。授業実施が週3ないし4日であることから、各授業日に原則2人のTAが授業支援に参加できるように調整をしていただいた。TAの活動日を表7-1に示す。
 当初、4月新学期の授業開始時から活動をお願いすることにしていたが、新しく授業場所として設定した視聴覚室に新しく導入した端末25台とサーバーのセッティング等も立ちあってもらいたいという考えから、実際には4月7日の端末準備から活動をお願いした。

表7-1 TA一覧


7-3 TAの役割

 TAの主な授業支援内容は次のようなものである。
(1) 授業中の生徒の質問に対する対応
 TAの授業支援の中心となるのが、授業中に生じた端末やアプリケーションの操作に対する個別指導である。個別指導はTTで授業者以外の教官も担当するが、人数の関係上大部分の個別指導についてはTAが対応してくれていると言って過言ではない。
(2) 日常的な仕事
@ 授業実施前の準備  
 各端末の初期設定の確認
 生徒用サーバーに対する設定・準備
A 昼休みや放課後のコンピュータ室・視聴覚室の開放時の指導と管理
 端末・アプリケーションの操作法等の生徒に対する対応
 コンピュータ室・視聴覚室開放時間での機器管理の補助
B 授業やコンピュータ室開放後の端末のメンテナンス
C コンピュータ室の利用状況の調査と分析
D 授業の教材つくりの補助
E 授業で得られた情報の整理と分析
F 生徒の達成度の情報収集
G 放課後等の補充学習での指導支援
H 授業を支援する立場での感想・意見の集約
(3) 端末やネットワーク等の保守・管理の補助
 ネットワークの改良工事や端末へのアプリケーションのインストール・削除、端末の簡単な修理も経験してもらった。
(4) 保護者向けインターネット教室でのアシスタント
 思いつくままに挙げさせてもらったが、簡単に言えばTAが担当していない内容は「情報」授業を直接生徒に行うことだけである。「情報」の授業に関わる大部分のことを補助してくれているといえる。
 以上の活動報告は、本校のメーリングリストを通じて本校情報担当教官をはじめ、東京学芸大学の伊藤両先生、TAの3者間で相互になされている。

7-4 TA活動によって得られたこと
 TA導入が決定された当初、我々はTAに多くのことを期待していなかった。それは、TT体制である程度の成果を挙げられる見通しが前年度までの蓄積で見込まれていた点やここ数年の教育実地研究での学生の印象から、学生の行動に未知数が多い点があげられる。なによりも、TAは特別な情報教育を受けてきている訳ではなく、本校のコンピュータネットワークシステムについて全く分かっていなかった。4月当初は1から教えなければならなかったことが多かったことも事実である。しかし、TA諸君は将来是非教員になりたいという意欲を全面に出して、次々と知識を習得し、技術を身につけていった。その成果として、TAは教官にとっても生徒にとっても極めて有用な存在になっている。
(1) 授業担当者の立場から考えられる有用性
@ 簡単な質問への対応など生徒に対してこれだけきめ細かな対応はTTだけの授業体制では不可能である。
A 放課後の指導、特にトラブルの対応にはTAの補助は必需といえる。
B 授業が連続するときのファイルの準備・整理においてTAの存在は大変大きい。
C 授業後の端末のメンテナンスをTAが行ってくれるおかげで、翌日以降の授業が円滑に行えている。
D TAによる客観的な授業報告は、その日の授業や生徒行動の問題点にまで盛り込まれており、それ以降の授業運営の対策になる。
(2) TAの立場から考えられる有用性
@ 情報授業に対する教官組織の在り方や協力の在り方を自然に身につけられる。
A 同じ授業を各授業担当者が異なるアプローチで試みるのを見ることによって、各授業者の指導法の創意工夫や問題点をごく自然に学ぶことができる。
B 個別指導を通じて生徒が課題を解決し理解するまでの過程をしっかりと観察できる。
C 教育実習よりもはるかに生徒との直接的な交流がある。
D TAを単に実習生としてではなく、一指導者として見ているので、指導の成果が直接TAにフィードバックされ、達成感や満足感が多く得られる。
 以上、述べてきたように教官の立場からもTAの立場からもTAの授業支援によって得られるものは大変大きいと考えられる。特に我々教官にとっては、TAは授業をサポートしてくれる役割以上に情報授業を活気づけ、明るくしてくれる存在である。導入当初の予想をはるかに上回り、現在ではTAは単なる授業補助以上の存在になっているといえる。

7-5 TA活動の今後の展望
 本校のみならず、国公立および私立の大学附属校での情報授業の実施を考えた場合、大学の学生のTA支援活動は、比較的簡単に行うことが可能であり、また、その有用性も大きいものと思われる。授業担当者の負担を軽減することは勿論のことであるが、教員を将来志望する学生にとって、数週間の教育実習では得ることのできない多くのことを学ぶ機会を与えられる意義は大変大きいと思われる。現在のTA支援活動は、完全なボランティア活動であり、単位の取得や報酬が期待できない学生の奉仕精神だけで成立している。今後、TAの支援活動を考えていくときに、学生へのこの活動に対する動機づけやTA活動によって得られるものを充実させていくこと等、指導教官側の姿勢が問われていくことになるであろう。また、TA活動に関わる大学の理解と協力が不可欠であることも付け加えておきたい。