「情報化に対応した教育課程の編成と実践」

教育工学委員会

川角 博、佐久間俊輔、長原美菜子、秋本弘章、吉野聡、大谷晋、坂井英夫、田中義洋
菅野晃、右田邦雄、田中正雄、遠藤信也、酒井やよい、遠藤真紀子、小久保理恵
e-mail:kgk@gakugei-hs.setagaya.tokyo.jp


 今年(1999年)度より本校ではじめた「情報」の二学期までの授業実践を中心に述べる。「情報」は1年生に必修で1単位を設置した。そのほとんどは実習を通した学習であり、特にコンピュータ・ネットワークの活用を中心とした。この授業を通して、情報活用能力を高めるだけでなく、情報化社会に生きる態度、価値観、倫理観、行動力を育てることをめざした。本稿では、単に授業実践や教材例を示すにとどまらず、その授業を支えたチームティーチング(以下TT)やティーチングアシスタント(以下TA)のシステム、生徒実態についても述べる。
 なお、本研究は平成10,11年度の文部省教育課程研究指定校「情報化に対応した教育課程の編成とその実践」としての研究でもある。

キーワード
 教科情報、ワープロ、表計算、html、プレゼンテーション、著作権、電子メール、コンピュータ、ネットワーク、インターネット、ファイル共有、パスワード、チームティーチング、TT、ティーチングアシスタント、TA

0. はじめに
 学校は未来を創造する「人」を育てるところである。そのためには、どのような未来を創るべきか、来るべき未来社会のために、いまどんな生徒を育てるべきか、を念頭に置かねばならない。しかし、人智をはるかに越えるスピードで大量の情報が世界を飛び交う世界が、コンピュータネットワークにより急速に構築されてしまい、情報化に対応した教育に関して、日本の学校は後れをとっていると言える。これに応えたのが、2003年度から実施の新学習指導要領の新教科「情報」である。教科「情報」設置に至る流れを簡単に確認しておく。

 1996年7月に出された第15期中央教育審議会第一次答申「情報化と教育」では、情報化に適切に対応した教育の充実が提言された。1997年6月には、「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について 」(中央教育審議会 第二次答申)の「(d) 情報化に対応する教育を重視する学校」において、以下のように述べている。
 高度情報通信社会で生きていくために必要となる資質や能力を子どもたちに養っていくことは、今日の教育において極めて重要な課題となっている。情報化に対応する教育を重視する観点を軸に据えて、6年間にわた、十分な時間をかけてインターネットなどの情報ネットワークを活用したり、情報リテラシーを体系的に育成したり、情報モラルをしっかりと身に付けさせるような教育活動を積極的に取り入れていくことが期待される。

 さらに、1998年10月には、「体系的な情報教育の実施に向けて」(情報化の進展に対応した初等中等教育における情報教育の推進などに関する調査協力者会議 第一次報告)の中で、高等学校段階において、普通教育に関する教科「情報」を可能な限り必修として設置することが望ましい、としている。その内容として「情報の科学的な理解」及び「情報社会に参画する態度」を上げている。
 1998年10月の「幼稚園、小学校、中学校、高等学校、盲学校、聾学校及び養護学校の教育課程の基準の改善について」(教育課程審議会 答申)(3)各学校段階・各教科等を通じる主な課題に関する基本的考え方 (情報化への対応) ウ において、以下の記述がある。
 平成11年度までに公立学校において、小学校で2人に1台、中学校・普通科高等学校・盲学校・聾学校・養護学校で1人に1台の水準で教育用コンピュータの整備が進められている。また、学校における情報通信ネットワークについては、中学校・高等学校・盲学校・聾学校・養護学校は平成13年度までに、小学校は平成15年度までに、すべての学校がインターネットに接続できるよう計画的な整備が進められている。今後は、児童生徒の発達段階に応じて、各学校段階を一貫した系統的な教育が行われるよう更に関係教科等の改善充実を図り、コンピュータや情報通信ネットワーク等を含め情報手段を活用できる基礎的な資質や能力を培う必要があると考える。
 具体的には、小学校、中学校及び高等学校を通じ、各教科等の学習においてコンピュータ等の積極的な活用を図ることとし、学校段階ごとには、小学校においては「総合的な学習の時間」をはじめ各教科などの様々な時間でコンピュータ等を適切に活用することを通して、情報化に対応する教育を展開する。中学校においては技術・家庭科の中でコンピュータの基礎的な活用技術の習得など情報に関する基礎的内容を必修とし、高等学校においては、情報手段の活用を図りながら情報を適切に判断・分析するための知識・技能を習得させ、情報社会に主体的に対応する態度を育てることなどを内容とする教科「情報」を新設し必修とすることが適当である。
 なお、情報に関する教育の推進に当たっては、人間関係の希薄化や実体験の不足の招来など、情報化が児童生徒に与える「影」の部分に十分留意することが望まれる。

 以上のようにして、ようやく日本の国民的なレベルでの情報教育が動きだそうとしている。しかし、その具体的な授業内容や、必要な授業環境は今だ定かではない。本稿執筆中の1999年12月はじめにおいても、教科「情報」の学習指導要領解説すらも公表されていない。
 本校の必修「情報」授業の実施は、本校独自の必要性を満たすとともに、教科「情報」授業の具体的なイメージをも教育現場に示してみようとするものである。教科「情報」の教材研究と環境研究、授業の企画、実施から評価まで、実際に教科「情報」を実施する学校現場に必要な全てについて、実践を通して研究した。1999年10月30日には、その授業を公開授業研究会として公開し、全国より250名に及ぶ参加者を集め、「情報」授業の具体例を提示した。この反響はきわめて大きいものであった。これについては、文部省教育課程研究指定校「情報化に対応した教育課程の編成とその実践」研究報告書(2000.3)を参照されたい。