第34回校長BLOG

第34回校長BLOG

中庭集会挨拶または現下の危機とチャンスについて(6月24日集会)

 

今日は危険な暑さということで、炎天下の中庭を避け、急遽放送による集会といたしました。

現在、新型コロナウイルス感染症の新規感染者数は東京都では微増の状況であり、学校行事等は緩和の方向だったが要警戒です。一方、立川市の小学校で学年の3分の1近くの生徒がインフルエンザに感染し、学年閉鎖となりました。ここ2年間インフルエンザ流行が無く、ワクチンもほとんどうっていない状況なので、今年はインフルエンザ流行の可能性もあります。秋にはワクチン接種が必要かもしれません。また、真夏が近づき気温が上昇して熱中症の被害が出ています。マスク着用に関しては、コロナ予防と熱中症予防は真逆になります。文科省等も言っているのですが、生徒諸君など若者では熱中症予防が優先されます。運動時はマスクを外し、運動中以外ではマスクをするようにしてください。水分補給と適切な休憩が必要ですし、調子が悪いようなら我慢せず早めに言ってください。新型コロナウイルス感染症とインフルエンザと熱中症の三重苦に厳重警戒です。

 

さて、今日は国際化、グローバリズムに関連した二つのテーマを紹介します。

1 今年11月に、都立高校の入試で英語のスピーキングテストが開始

都立高校を受ける予定の中学3年生8万人を対象に、各受験生がタブレット端末に向かい英語でしゃべる内容を録音し、発音や単語、語順等の文法事項を採点するというものだそうです。6段階に評価し、満点が20点で5教科の学力試験の合計700点満点、調査書の合計点300点満点に加えて1020点満点で順位をつける。既存の学力検査におけるリーディング、ライティング、リスニングに加えて英語の4技能での検査が可能になります。大学入試でもスピーキングテストをやれるところは少なかったのですが、高校入試で8万人を対象にスピーキングテストを実施するというところが画期的です。

実は大学入学共通テストの英語でも業者との連携で4技能のテストを行う予定だったということは覚えていることでしょう。直前で中止になったわけですが、この東京都の高校生への試みがうまくいくと、大学入試への影響も出るかもしれません。そうなってくると、より一層スピーキングも含めた4技能への備えが必要になってきます。生徒の皆さん、注意しておきましょう。

もう一つ、この話題で注目すべきは、このテストの採点が、フィリピンにおいてフィリピン人のスタッフが行うという点です。日本の高校生の英語力をフィリピンの方が採点する。まさにグローバル社会を象徴するかの出来事です。フィリピンは14世紀から15世紀にかけてイスラム王国だったのですが、マゼランが世界一周時に寄港したということもありスペインの植民地になります。19世紀末に米西戦争(アメリカとスペインの戦争)の結果アメリカの植民地となり、第二次大戦での日本による占領を経て戦後独立して今に至る。フィリピンの方にとっては植民地となることはえらい災難ではありますが、西のイスラム文化、世界帝国スペイン、そして東のアメリカと世界とのグローバルなつながりが昔からあった国です。当然、国民は外国語に対して慣れていて、一方では島国で各地に多くの言語があり、公用語として英語が使われてきました。そのため、多くのフィリピンの方たちは英語が得意なわけです。

私たち日本人は幸いなことに有史以来占領された経験は第二次大戦後の7年間だけ。国内で日本語以外の言葉がわからなければ生きていけないということはないし、さらに多くの学問もその基礎的な部分においては自国語で学べるという恵まれた状況にあります。しかし、このことは、日本人が世界で活躍するときにはハンディともなります。生きるために必要に迫られて英語を学ぶという経験がないため、私たちの英語力はもう一つです。

 

2 東京大学グローバルリーダー育成プログラム

ということで、もう一つの話題。先日、私宛に東京大学グローバルリーダー育成プログラムのパンフレットが100部ほど送られてきました。東京大学を目指す生徒の多い全国の高校に送っているそうです。パンフレットを見ると、このプログラムは、国際社会における指導的人材を育成することを目的として、東京大学の大学生100人を対象とした2年半のプログラムだそうです。2年時の夏にハイレベルの英語によるコミュニケーション能力TOEFL iBT 100以上等と国際社会における将来のリーダーとしてのビジョンと推進力を持つ学生を選抜する。選抜された学生は、海外のトップクラスの研究者や学生と共同研究したり、国際的な起業家や専門家との交流をしたりできる環境と、さらに海外プログラムへも奨学金が出て参加できる機会が与えられるそうです。言わば、東大生の中の東大生、世界標準のリーダーを育成するものといえましょう。

国際社会に貢献する人材を育てるという本校のグラデュエーションポリシー(どのような力を卒業までに身につけさせたいかという方針)とも合致した東大の取り組みですね。キーワードは、リーダーシップとコミュニケーション能力です。これからの社会で最も必要とされる力だと思います。進路部にパンフレットが置いてありますので、興味を持った生徒は、学年を問わず取りに来てください。もし、不足するようならすぐに追加を東大に頼みます。

 

3 今月の一冊

グローバル経済史入門、杉山伸也著、岩波書店、岩波新書です。国際化、グローバリズムというと最近のことのように誤解してしまいます。この本は14世紀から歴史特に経済史を紐解き、現代のグローバル化を考える縁とします。14世紀は、ヨーロッパは中世、ムスリムのオスマン帝国が勃興し、中央アジアではチムール帝国が勃興する。そして中国では明が元に取って代わるといったダイナミックな時代です。現代のグローバル化にどうつなげていくのか、著者の論述の妙技を楽しんでください。

 

梅雨も末期になり、蒸し暑い日が続きます。梅雨末期特有の豪雨に気を付けるとともに、体調にも気を付けて、勉強に、部活に、辛夷祭の準備に頑張ってください。と、24日の中庭集会では話したら、もう梅雨はあけてしまいましたね。

第33回校長BLOG

第33回校長BLOG

中庭集会(5月27日)挨拶より

今、中庭の泰山木が咲いています。学名 Magnolia grandiflora、ラテン語で大きな花のモクレンと言った意味でしょうか。その名の通りモクレン属の堂々たる常緑高木で、この季節に牡丹の花のような白い大きな花を上向きに咲かせます。とても良い香りがします。

本校の校章にもなり、校歌でも「花あり あふるる 白きひかり、ゆたかなるかな 葉かげ薫れり」と歌われています。花言葉は『前途洋々』だそうです。本校の生徒にぴったりですね。中庭の校舎側にありますので是非見てください。

さて、今年はコロナ禍3年目でやっと警戒しつつ学校行事が戻りつつあります。遠足は全学年で実施され、これから、6月の体育祭、7月からの林間学校、9月の辛夷祭、11月の学習旅行と、すべてが実現してほしいと切に願っています。そういえば、今年の辛夷祭のテーマは『マグノリア新世紀』でしたね。

一方、皆さんはこのコロナ禍でどうしても運動不足気味だと思います。行事や部活動では熱中症が心配です。もちろん先生方は注意していますが、皆さん自らが自己管理するようお願いいたします。2年生、3年生の皆さんは、自分のことだけでなく1年生の調子もよく見て熱中症を予防してください。

さらに、辛夷祭では毎年キャスト決め等をめぐりトラブルがよく起きます。これは仕方ないことだし悪いことだとは思いません。互いに熱中して取り組めばトラブルも起こる。それを生徒間で解決する経験が大事です。その経験が社会人となった時の生きる力につながります。もちろん、そのトラブルが該当の行事の範囲を超えて、個人攻撃やネット等での炎上など生徒だけでは解決できそうも無い状況になったら、すぐに学校として対処しますので先生方に相談してください。

今月の一冊は、村上春樹、『一人称単数』、文藝春秋。短編集です。村上春樹の作品は、大きな社会の構造を硬質の筆致で描いたものと、個人の繊細な心の震えを叙情的に捉えたものとがあります。この短編集は主に後者であり、読み進めると心が潤います。因みに、この村上春樹の二面性を一冊で明確に表しているのが、『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』であり、こちらも私の最も好きな春樹ワールドの一冊です。一読を。

第32回校長BLOG

第32回校長BLOG

 

今回は、入学式辞と新入生オリエンテーションでの挨拶という、両方とも1年生に向けた挨拶を載せます。あえて2つを並立させるのは、入学式辞がアグレッシブで理想主義的なのに対して、オリエンテーションの方は少し肩の力を抜いた現実主義的なものだからです。自己撞着と思うかも知れませんが、タフに生きていく上では多少の矛盾を併せのむくらいの柔軟性・適当さをつけてほしいと思っています。

オリエンテーション挨拶の方は、あっちこっち寄り道しています。文体の調子の違いも楽しんでください。

 

Ⅰ 令和四年 入学式式辞

季節の主役が、満開の桜から緑の若葉に替わりつつある、この清々しい日に、三百二十二名の希望に満ちた新入生の皆さんを迎えることができ、学校として、まことに慶びに耐えません。

 

・・・中略・・・

 

入学式を心待ちにしていらした保護者の皆様。新型コロナウイルス感染症のまん延防止のために、ご参加に制約をしたことをお詫び申し上げます。さらに、コロナ以前にあった在校生による校歌や式歌の演奏も中止せざるを得ませんでした。学校としては大変残念な気持ちです。しかし、ここは新入生・保護者の皆様・在校生・教職員の健康と安全が第一優先です。もう少しの我慢で、新型コロナウイルス感染症の一刻も早い収束を実現させましょう。

今、世界は、新型コロナウイルス感染症だけではなく、ロシアによるウクライナ侵攻や、台頭する中国にどう対応するのかという問題、さらには地球温暖化をはじめとしたグローバルな環境問題など、難問が山積しています。底流には、経済のグローバル化とデータサイエンス、バイオサイエンスの急激な進歩があります。

これからの国際社会は、Society5.0に象徴される超情報化社会と一時代前の力による支配とが両立併存する不安定な状況に突入します。私たち一人ひとりと日本はどのような立ち位置を占めて、この難関にあたっていくのか。ここ十年が勝負でしょう。

『彼を知り己を知れば百戦殆からず』

敵のことと自分のことの双方をよく知っていれば、戦っても負けることはない。紀元前500年頃の兵法家・孫子の言葉と言われています。孫子は軍事思想家として当時の軍事理論を『孫子(本の名前)』としてまとめ、今でも歴史に残る名著と言われています。私がここでいう敵とは例えば戦争です。戦争を無くすためには、戦争について目を背けずしっかり勉強する必要があるのです。参考文献として他には、紀元前1世紀ローマの軍人、政治家、文人である、ユリウス・カエサルの『ガリア戦記』と『内乱記』、第二次大戦前後の日本人の作家大岡昇平の『レイテ戦記』をあげておきます。読んでみてください。

さて、これからの日本社会と国際社会とは、皆さんが作っていくものです。是非、最大多数の最大幸福を目指す側に立ち、良い仕事をしていってほしい。そのために必要なのは、基礎基本の定着と、生涯にわたり学び続ける姿勢と方法を身に付けておくことです。

私は、最近、どのような場でも言っていることですが、基礎基本も含め、今身に付けた知識・技能はすぐに陳腐化します。その速度は恐ろしいほどです。

それでは、学ぶ意味はないのか。

そんなことはありません。むしろ、学ぶ意義はより深くなっています。ただ、学校教育が完成教育ではなくなったということです。これからの社会で生きる人は、一生学び続けなければなりません。学校を卒業しても、自分の置かれた場で、自分で必要なことを探し、自分で身に着けていかねばなりません。そのための、学校教育であり、本校での学習です。生涯学び続ける姿勢と方法を身に付けるためには、逆説的ではありますが、基礎基本が大事です。

本校で、教科の学習はもちろん、探究活動や行事、部活動などを通じて、本物の学力と気力と体力を身に付けてください。そして、困難さを増す国際社会で、困っている人を助ける姿勢と力を培ってください。

If I wasn’t hard, I wouldn’t be alive. If I couldn’t ever be gentle, I wouldn’t deserve to be alive.

タフでなければ生きていけない、優しくなければ生きていくに値しない

レイモン・チャンドラーのハードボイルド小説プレイバック中での私立探偵フィリップ・マーロウのセリフです。

皆さんが本校で積極的に学び、楽しく活動し、卒業する時には、それぞれの希望する進路に向かい元気に飛び立つことを今から願っています。頑張ってください。

次に、保護者の皆様に申し上げます。

この度は、お子様のご入学、誠におめでとうございます。

本日より大切なお子様をお預かりし、学校としてできる限りの教育を行い、お子様の健全なる成長を支援してまいります。

入学に当たり、学校として保護者の皆様にお願いが三つございます。

第一は、生徒が自立した人間となるよう、温かくも適切な距離をもって接してほしいということです。高校生は思春期真っ盛り、独立心が芽生える時期です。致命的でない程度の失敗を冒すこと、リスクを取って挑戦することを許してほしいと思います。挑戦と失敗が人間を育てます。もちろん、致命的な失敗とならぬよう、適切かつ毅然とした指導は必要です。

第二は、第一と矛盾するようではありますが、お子様が「高校生として必要かつ望ましい習慣」を身につけるよう、ご家庭でのご指導をお願いしたいということです。高校生の年代は、経験も判断力もまだまだ未熟です。また、高校生を取り巻く環境は決して安心できるものではありません。そういう状況で、良き習慣を身につけさせるためには、ご家庭でのご指導が是非とも必要です。

最後は、本校の教育方針をご理解頂き、学校との連携をお願いしたいということです。生徒の実態と社会の状況を踏まえた本校独自の教育方針があります。このことをご理解頂いた上で、ご家庭と学校が車の両輪となり、お子様の成長を支援していきたいと考えております。何卒、よろしくお願い申し上げます。

結びに、本日入学した三百二十二名の新入生の皆さんの充実した高校生活と、健やかな成長を祈念し、式辞といたします。

 

Ⅱ 新入生オリエンテーション挨拶

 

「あれか、これか」または無理をしないことについて

 

「あれか、これか」とは、19世紀デンマークの実存哲学者、キエルケゴールの著書の題名である。人は人生で決定的な選択を迫られるという内容である。

因みに古典的な哲学書、デカルト、パスカル、モンテーニュ等によるものは時間をかけてじっくり読めば大よそ言いたいことはわかる。ところが、カント、ヘーゲル、キエルケゴールといった近代哲学は何度読んでもわかりにくい。これは、前者が人に共通に備わった(とされている)良識、常識から思考を出発させているのに対し、後者はその良識、常識を疑うところから出発しているからだと、私は思っている。

ところで、文武両道とよく言われる。学校で言えば、学習と部活・行事、もちろん両立・鼎立が望ましい。理想的な姿ではある。つまり、『あれも、これも』の状態である。しかし、この両立・鼎立は時に通常の(健康的な範囲の)努力では実現しない場合がある。一方、時に楽々と両立・鼎立させられる人もいるので混乱が生じる。

他の例を出そう。『健全なる精神は健全なる身体に宿る』ということが言われる。では、逆に言うと、身体が健全でなければ精神も健全ではないというのか、

当然違うであろう。これは、もとになった古代ローマの詩では、『健全なる精神が健全なる身体に宿ってあれかし』すなわち、そうあってほしいものだ、両立は極めて難しいから神様にでも祈ろう、という意味だったらしい。

本題に戻る。それでは、私たちはどうやって日々を過ごせばよいのか。特に、現代のように感染症が蔓延し、戦争が起こり、全地球規模の環境問題が深刻な状態にある、『あれも、これも』が困難なこの世界において。

私の願望は、個々の生徒が優先順位(プライオリティ)を確立してほしいということだ。例えば私の考えでは、現下の高校にとっての優先順位は、第一に心身の健康、第二が勉強、第三が部活と行事だろう。それでも余裕があれば、バイトでもゲームでもお好きなようにということになる。

優先順位さえ決まれば、自分の体力、知力、気力に応じて、上から順に達成していけばよい。先の優先順位を仮に認めるなら、学校としては、少なくとも第二の勉強まではコロナ禍であっても何とか達成してほしい。できれば、部活や行事にも積極的に参加して、生きる力を磨いてほしい。しかし、幸か不幸か、健康第一にしっかり高校の勉強に励み、部活や行事で活躍していたら、バイトやゲームにエネルギーを割ける生徒はほとんどいないと思う。

昨日の入学式のスピーチでは知的冒険を進めたが、今日は敢えて現実主義で『つまらない常識』を言う。自分のことをよく知り、心身を痛めるような無理はしないでよい。場合によっては、無事卒業を目指すというのも一つの立派な目標である。