第36回校長BLOG

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現下の『状況』にコミットする、または大人としての責任について

今年の夏休みも、課題は新型コロナウイルス感染症(Covid19)と熱中症だった。
夏休み中に第7波となり、いろいろな行事も制約せざるを得ない状況だったが、幸い林間学校は全クラス実施できた。この上は、なんとか辛夷祭を無事開催したい。

熱中症に関しては、6月中に35度を超える熱波が襲来し、一挙に厳重警戒になった。内陸部では40℃に達する暑さで、この気温は体温を上回るので大雑把に言えばしっかり衣服を着こみ、外気に肌を触れないほうが良い状態である。砂漠の民が体を覆い窓の少ない家に引きこもるのも、日よけであり外気よけである。前から言われていたように、人間の活動によるCO2をはじめとした温室効果ガス放出の影響であることは間違いないと言える。地球温暖化の影響は、海に浮かぶ島々に浸水被害をもたらしただけではなく、アジアやアフリカ等で降雨量の減少による砂漠化、アメリカでの大規模な山火事、多くの地域での作物の凶作など枚挙にいとまがない。この期に及んで、地球温暖化など起こっていないなどという人もいるが、流石にもう議論をする時ではなく行動する時だろう。

3年生のなかには選挙権を得た人もいるだろう。大人になったわけである。大人と子供はどう違うか。私は、責任を果たすことができるかどうかがその分け目だと考える。子供は自分一人で責任を負わなくてもよい。保護者や所属する組織が責任の一端を担ってくれる。大人は原則として一人で責任を負わねばならないし、その責任を負ってこそ真の大人と言える。子供が大きなトラブルを起こしてもメディアに名前が出ることは無い。メディアに出てきて謝るのは小中高の校長だったりする。今までは、高校卒業が一つの区切りだった。大学生はメディアに名前が出ることがあるし、大学生が個人として引き起こした事故について学長が謝罪することも無い。20歳未満の大学生は微妙な位置にあったわけだが、今後は18歳以上の高校生も微妙な立ち位置となる。以前から児童相談所は18歳以上の高校生は支援してくれない。今後は一事が万事、18歳以上を大目に見ることは無くなるかもしれない。

責任を持つとは、いつでも自分の行動を説明できるということでもある。明確な意識なく行動していたら、「ボーと生きてんじゃねえよ」と活を入れられる。地球温暖化を少しでも緩和するために自分は何を為すべきか。コロナと経済や学習をどう調整して両立を図るのか。ウクライナ侵攻に見られる危機に自分たちはどう備えるのか。これらの課題を解決すべく、十分な情報を集め、検討し、解決策を探るのが現代における責任ある生き方だろう。18歳になったら、急にかつ自動的に、そんな生き方ができるようになるわけがない。高1、高2と問題から逃げず自分の頭でしっかり考え抜く経験がそのようなことを可能とする。

ということで、今月の一冊
ダニエル・ヤーギン、『新しい世界の資源地図』東洋経済新報社。著者はエネルギー問題の専門家であり、ピューリツァー賞受賞のジャーナリスト。今の世界を、『エネルギー』、『気候変動』、『国家の衝突』の3観点から展望する。アメリカ、ロシア、中国、中東の地図を描いた後、自動車と気候の地図を描く。最後に今最も『ホット』な地域である南シナ海に4人の亡霊が現れる。アフリカまで大航海をした明の提督である鄭和、国際法の父オランダのグロティウス、海軍戦略論で世界中に大きな影響を与えたアメリカの海軍軍人マハン、イギリスのジャーナリストで戦争に勝者はいないと言ったエンジェルである。この4人が現在の世界にどのような影響を与えたのか。お読みあれ。

第35回校長BLOG

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2022年度 第1学期終業式

以前、前任校の1学期の終業式で、満18歳以上に投票権が与えられるという話をしました。この年、改正公職選挙法が衆参両院で全会一致で可決され、選挙権年齢が満18歳に引き下げられたのです。選挙権年齢の引き下げは、昭和20(1945)年にそれまでの「満25歳以上の男子」に限られていた選挙権が「満20歳以上の男女」に改正されて以来、約70年ぶりのこととなると話しました。

それから7年たち、現在の本校3年生の中には先の参議院選で投票した人もいたかと思います。皆さんは政治への興味・関心を持っていますか。

現在、世界は新型コロナウイルス感染症に苦しみ、ロシアのウクライナ侵攻に脅威を感じ、温暖化など地球環境の悪化に手をこまねいています。日本でも、少子高齢化や経済の低迷など課題は目白押しです。

これらの問題に対処する一つのそして大きな手段が政治です。課題が多いからと言って虚無的になることなく、高い理想を掲げて、目の前の一つ一つの課題に地道に取り組むことが必要でしょう。それには、政(まつりごと)はわがことにあらずなどと気取ってはいられません。政治をよくするのは、人々の政治への関心です。今、国や社会で起きている問題を自分の問題として捉えることや、政治の在り方や社会の在り方について、関心をもって勉強し、社会参画することが大切になります。

我が国の憲法では国民主権をうたっています。国民主権とは、一国の政治の在り方を最終的に決定するのは国民であるということです。主権者である国民として民主政治を維持するためには、皆さんの政治参加が必要となります。自ら考え、自ら判断し、自ら行動すること、特に選挙においては、情報を集め、よく考え、投票先を決め、投票に行くことは政治参加の一つです。大切なことは、多くの課題に直面している我が国において、皆さんが国や社会の課題について、当事者としての意識をもち、参加、協働、支え合いなどによって活気のある社会を形成していくことだと思います。今後は、高校生も政治について、正しい知識を身に付ける必要があります。皆さんが社会参画、とくに選挙時においては投票という政治参加によって、よりよい社会を築いていく担い手の一人になることを願っています。

ということで、今月の一冊、「日本の思想」 丸山眞男 岩波新書。1961年発行という古い本です。しかし、ロシアのウクライナ侵攻以来、現実主義の言説がまん延する中、私自身も保守的現実主義者なのですが、あえてリベラルな理想主義の本を読む価値はあるかと思います。リベラルと言ったらこの人、丸山眞男の『政治的思想』にかかわる著作です。日本の政治思想・政治論争には歴史性が無い。丸山はなぜそう思うのか。読んでみてください。

最後に決まり文句

充実した夏休みを過ごしてください。しっかり成長した皆さんに始業式の日に会えることを楽しみにしています。

第34回校長BLOG

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中庭集会挨拶または現下の危機とチャンスについて(6月24日集会)

 

今日は危険な暑さということで、炎天下の中庭を避け、急遽放送による集会といたしました。

現在、新型コロナウイルス感染症の新規感染者数は東京都では微増の状況であり、学校行事等は緩和の方向だったが要警戒です。一方、立川市の小学校で学年の3分の1近くの生徒がインフルエンザに感染し、学年閉鎖となりました。ここ2年間インフルエンザ流行が無く、ワクチンもほとんどうっていない状況なので、今年はインフルエンザ流行の可能性もあります。秋にはワクチン接種が必要かもしれません。また、真夏が近づき気温が上昇して熱中症の被害が出ています。マスク着用に関しては、コロナ予防と熱中症予防は真逆になります。文科省等も言っているのですが、生徒諸君など若者では熱中症予防が優先されます。運動時はマスクを外し、運動中以外ではマスクをするようにしてください。水分補給と適切な休憩が必要ですし、調子が悪いようなら我慢せず早めに言ってください。新型コロナウイルス感染症とインフルエンザと熱中症の三重苦に厳重警戒です。

 

さて、今日は国際化、グローバリズムに関連した二つのテーマを紹介します。

1 今年11月に、都立高校の入試で英語のスピーキングテストが開始

都立高校を受ける予定の中学3年生8万人を対象に、各受験生がタブレット端末に向かい英語でしゃべる内容を録音し、発音や単語、語順等の文法事項を採点するというものだそうです。6段階に評価し、満点が20点で5教科の学力試験の合計700点満点、調査書の合計点300点満点に加えて1020点満点で順位をつける。既存の学力検査におけるリーディング、ライティング、リスニングに加えて英語の4技能での検査が可能になります。大学入試でもスピーキングテストをやれるところは少なかったのですが、高校入試で8万人を対象にスピーキングテストを実施するというところが画期的です。

実は大学入学共通テストの英語でも業者との連携で4技能のテストを行う予定だったということは覚えていることでしょう。直前で中止になったわけですが、この東京都の高校生への試みがうまくいくと、大学入試への影響も出るかもしれません。そうなってくると、より一層スピーキングも含めた4技能への備えが必要になってきます。生徒の皆さん、注意しておきましょう。

もう一つ、この話題で注目すべきは、このテストの採点が、フィリピンにおいてフィリピン人のスタッフが行うという点です。日本の高校生の英語力をフィリピンの方が採点する。まさにグローバル社会を象徴するかの出来事です。フィリピンは14世紀から15世紀にかけてイスラム王国だったのですが、マゼランが世界一周時に寄港したということもありスペインの植民地になります。19世紀末に米西戦争(アメリカとスペインの戦争)の結果アメリカの植民地となり、第二次大戦での日本による占領を経て戦後独立して今に至る。フィリピンの方にとっては植民地となることはえらい災難ではありますが、西のイスラム文化、世界帝国スペイン、そして東のアメリカと世界とのグローバルなつながりが昔からあった国です。当然、国民は外国語に対して慣れていて、一方では島国で各地に多くの言語があり、公用語として英語が使われてきました。そのため、多くのフィリピンの方たちは英語が得意なわけです。

私たち日本人は幸いなことに有史以来占領された経験は第二次大戦後の7年間だけ。国内で日本語以外の言葉がわからなければ生きていけないということはないし、さらに多くの学問もその基礎的な部分においては自国語で学べるという恵まれた状況にあります。しかし、このことは、日本人が世界で活躍するときにはハンディともなります。生きるために必要に迫られて英語を学ぶという経験がないため、私たちの英語力はもう一つです。

 

2 東京大学グローバルリーダー育成プログラム

ということで、もう一つの話題。先日、私宛に東京大学グローバルリーダー育成プログラムのパンフレットが100部ほど送られてきました。東京大学を目指す生徒の多い全国の高校に送っているそうです。パンフレットを見ると、このプログラムは、国際社会における指導的人材を育成することを目的として、東京大学の大学生100人を対象とした2年半のプログラムだそうです。2年時の夏にハイレベルの英語によるコミュニケーション能力TOEFL iBT 100以上等と国際社会における将来のリーダーとしてのビジョンと推進力を持つ学生を選抜する。選抜された学生は、海外のトップクラスの研究者や学生と共同研究したり、国際的な起業家や専門家との交流をしたりできる環境と、さらに海外プログラムへも奨学金が出て参加できる機会が与えられるそうです。言わば、東大生の中の東大生、世界標準のリーダーを育成するものといえましょう。

国際社会に貢献する人材を育てるという本校のグラデュエーションポリシー(どのような力を卒業までに身につけさせたいかという方針)とも合致した東大の取り組みですね。キーワードは、リーダーシップとコミュニケーション能力です。これからの社会で最も必要とされる力だと思います。進路部にパンフレットが置いてありますので、興味を持った生徒は、学年を問わず取りに来てください。もし、不足するようならすぐに追加を東大に頼みます。

 

3 今月の一冊

グローバル経済史入門、杉山伸也著、岩波書店、岩波新書です。国際化、グローバリズムというと最近のことのように誤解してしまいます。この本は14世紀から歴史特に経済史を紐解き、現代のグローバル化を考える縁とします。14世紀は、ヨーロッパは中世、ムスリムのオスマン帝国が勃興し、中央アジアではチムール帝国が勃興する。そして中国では明が元に取って代わるといったダイナミックな時代です。現代のグローバル化にどうつなげていくのか、著者の論述の妙技を楽しんでください。

 

梅雨も末期になり、蒸し暑い日が続きます。梅雨末期特有の豪雨に気を付けるとともに、体調にも気を付けて、勉強に、部活に、辛夷祭の準備に頑張ってください。と、24日の中庭集会では話したら、もう梅雨はあけてしまいましたね。