第52回校長BLOG

第52回校長BLOG

令和七年卒業式

梅の花が咲き、早春の気に満ちたこの良き日に、321名の卒業生の門出を迎えましたことは、学校としてまことに慶びに耐えません。

本日はご多用の中、本学副学長 國仙久雄様をはじめとし、多数のご来賓の皆様のご臨席を賜りまして、卒業生の門出を励まし、祝福して頂いております。ご来賓の皆様の温かいお心遣いに深く感謝いたしております。高いところからではございますが、学校を代表し、厚く御礼申し上げます。ありがとうございます。

卒業生の皆さん、卒業、おめでとう。旅立つ気分はどうですか。三年前、高校という新しい環境に飛び込み、緊張していたのが今はずいぶん昔のように感じられることでしょう。あの入学式の少し前に、ロシアによるウクライナ侵攻があり、新型コロナウイルス感染症が猛威を振るっていました。私は入学式の挨拶で、「地球温暖化やグローバル化、データサイエンスとバイオサイエンスの急激な進歩」について語りました。「これからの国際社会は、Society5.0に象徴される超情報化社会と、一時代前の力による支配とが両立併存する不安定な状況に突入する。私たち一人ひとりと日本はどのような立ち位置でこの難関にあたっていくのか。ここ十年が勝負だろう」と言いました。残念ながら悪い予想は当たってしまい、現在は当時よりさらに不安定な状況です。生成AIの進歩で情報化社会は加速度的に進んでいますが、そのAI自体が社会の不安定化要因になっています。ウクライナに加えてパレスチナでの紛争も心配です。地政学的危機は三年前より深刻です。

こんな時こそ、皆さんの出番です。これからの社会で最大多数の最大幸福を実現するため、強く、かつ心優しい人間になってください。そのために、本校卒業後も、社会に出てからも、一生学び続けてください。回り道でも、そしてそのことを周囲から誹謗されても、客観的な事実を基に論理的に考えて判断してください。時代の一歩前を読み、半歩前を進んでください。それぞれの持ち場でイノベーションを引き起こし、国際社会に貢献する人間になってください。

皆さんに要求している生きる姿勢は、皆さんに困難を強いるかもしれません。それでも、本校で鍛えた知力と体力と気力で乗り切ってください。選択に困った時には、敢えて困難な道を選ぶことが最善の選択だったということがよくあるものです。

本日、来賓として出席いただいている同窓会・辛夷会会長 川合眞紀様をはじめ先輩方は、附高で学んだことをもとに、時には一人で時には他と協力して、リーダーとして世界に貢献されています。それぞれの先輩方が、個性的で広く深い能力をお持ちですが、全ての先輩に共通の能力が一つあります。それは、簡単にはあきらめず、粘り強く努力し続ける能力です。社会に有用で創造的な仕事ほど、簡単には成就できません。どんな成功者も最初は失敗続きです。しかし、その失敗を生かし、失敗から学ぶことが成功につながるのです。一所懸命努力して失敗するのは向こう傷です。向こう傷は、誇りにこそすれ恥じることではありません。入学式で、私がそう叱咤激励したのを覚えているでしょうか。

ところで、三月で附高を卒業するのは皆さんだけではありません。私も今年度で附高を卒業です。皆さんが私の附高時代の最後の卒業生です。皆さんとは異なり、私は卒業までに八年間もかかりました。赴任当初には新しい環境で心細かったのを覚えています。しかし、先生方、後援会泰山会、同窓会辛夷会の皆さんと、そして何より生徒の皆さんに支えられ励まされ、何とかやってきました。辛いときには周囲に相談し、頼り、「焦らず、慌てず、諦めず」の勤勉な楽天主義で困難を乗り越えてきました。

環境が変わることはストレスではありますが、そのストレスに積極的に立ち向かうと、面白さもあります。自分から働きかけ環境を変えていけば、やりがいが生じます。困難な中にこそチャンスがあり、充実した生活があります。

卒業生の皆さん、三年間の附高生活で身につけた本物の力で、世界という荒海に堂々と漕ぎ出してください。保護者の皆様と附高は、灯台となり風待ちの港となって、しっかりと皆さんを見守り続けます。卒業生の皆さんが良い航海を成し遂げるよう祈っております。
Bon voyage!

 

第51回校長BLOG

第51回校長BLOG

3学期始業式の校長挨拶

あけましておめでとう。今年が皆さんにとって良い年であるように祈っています。

さて、年の初めに嬉しい報告をいたします。ご近所の方から年末に次のような概略のメールがありました。
「本日も,生徒さん達の落ち葉清掃活動ありがとうございました。生徒さん達にはお礼の声掛けをさせて頂きました。
ありがとうございました。また、辛夷祭には地域の方々にも開放頂き誠にありがとうございます。私は、今後とも御校と町の連携を密にし、地域を盛り上げてゆきたいと思います。」
本当にありがたいお言葉、嬉しいお言葉です。皆さんのやった良いことも悪いことも、地域の方は見ています。多くの方は暖かく見守ってくださります。私たちも、地域からの応援を受け、少しでも地域に恩返しをする、間違っても登下校でのマナーで、地域の皆様にご迷惑をおかけしないようにしましょう。

それにしても、自分を温かく見守ってくださる方が一人でもいてくださるということは、何と心強いことでしょう。多少の困難や挫折があっても、そういう方がいると思うと乗り切ることができます。逆に言うと、私たち一人一人が、誰かにとってそういう人、足長おじさん・足長おばさんになりたいものです。

今年一年、皆さんが誰かを励ます存在になるよう祈っています。

今月の一冊は、新聞の読み比べの勧めです。定点観測として、ある日の紙面で、一つのテーマをどのように記事にしているか。例えば、朝日、毎日、日経、読売、産経で、トランプ氏をどう評価しているか、ダイバーシティ尊重、SDGsをどうとらえているかを比べてみる。その違いから何を読み取れるか、考えてみましょう。友達と話し合っても面白い。ファクトチェックの良い練習になります。さらに、英語の勉強も兼ねて、外国の新聞、ザ・タイムズやウォール・ストリート・ジャーナルなども加えると完璧です。毎日やるのは無理でも、月に1回程度、図書館に行って試してみてはいかがでしょう。

今日は以上です。

第50回校長BLOG

第50回校長BLOG

2学期終業式の校長挨拶

おはよう。

先日、朝登校すると、サッカー部の生徒何人かが銀杏の落ち葉を掃いていた。黄葉はきれいだが落ち葉は困りもの、掃除をしてくれて嬉しかった。ありがとう。

さて、胡蝶の夢という話が、中国戦国時代の思想書「荘子(そうじ)」にある。

自分が夢で蝶になって嬉々として飛んでいたが、夢から覚めると人間であった。果たしてこの自分は、蝶になった夢を見た人間である自分なのか、それとも、蝶が人間になった夢を見ているのかと考えるという話。

自分自身が夢を見た当人なら、今そんなことを考えている自分の意識は実存(我思う、故に我あり)だから人間の自分が蝶の夢を見ていたと言えるが、荘子(そうし)以外の人から見れば荘子の意識は計り知れないわけで、蝶の夢としての荘子という仮説は捨てきれない。この話は、ろくに証明もできないことに悩むのは意味のないことで、自分探しの旅などと言わず、その時その在りようが自分だとして、その場をしっかりとかつ喜ばしく生きていくことが大事だと言っている、と私は考えている。

ところで、先日、あるベンチャー関連の企業主催の勉強会に出た。「意識のアップロードとAI社会の展望」- 脳科学×人工知能の融合領域から見える今後の未来とは?-というテーマで、講師は、脳科学研究者。

内容は、AIに意識は宿るかということ。人の意識の働きを神経シナプスのシステムとみれば、それをAIで模倣することは可能であるということだった。即ち、神経シナプス同様、各チップが入力された情報に対してある種の演算に基づく情報を出力して他のチップに伝え、その構造全体をシステム化できれば、その一連の働きを意識としてもよいのではないか、ということ。つまり、意識とは何かという哲学的課題はとりあえず横に置き、意識らしい働きをするなら意識と呼んでもよいのではないかという発想だった。

車の自動運転で、前にある障害物を自動的に避けるシステムは完成しているが、この程度では、多くの人は自動車に意識があるとは言わない。しかし、人が車に乗って今日は疲れたからスタミナのつく夕食を作って食べたいとつぶやくと、車が、あなたの健康データからすると脂肪や炭水化物は控えてたんぱく質と野菜を多量にとったほうが良いからネギマなどどうですかなどと答える。人がいいねえと言うと、車は、今日のバーゲン情報からマグロと深谷葱の安いスーパーを探して駐車場まで連れて行ってくれ、一方家の炊飯器に連絡を取り米を炊いておく、となったらどうであろうか。この車は自分の提案が拒否されたら少し拗ねるくらいのことは簡単にやれる。

このようなシステムが高度に洗練されると、量は質に転化し、疑似意識といえるものになるのではないか。そうなってくると、この「意識」には人権があるのか、少なくとも動物愛護程度の配慮は必要ではないかという問題も生じてくる。さらには、映画「2001年宇宙の旅」の人工知能HALと同様、意識を持ったAIが人間を攻撃する可能性も考慮しなければならない。AI搭載の兵器は戦場に投入されているようだし、この問題は、最先端のAI研究者や脳科学者の一部で本気で考えられていることだ。

Society5.0の現代は、SFで描かれた世界がまさに実現しつつある。若い皆さんも油断していると時代と技術に置いていかれる。恐ろしくも興味深い時代ではある。

今日のお勧めの一冊は、SFの名作、イギリスの作家ジョージ・オーウェルの「1984年」、現代の世界の反ユートピア的描写であり、残念ながら現代、世界中で起こりつつある状況を見事に予言している。ハヤカワepi文庫で新訳が出た。なんと解説は「重力の虹」のトマス・ピンチョン。是非、一読を。

「Wishing you a Merry Christmas

and a Happy New Year!」