校長BLOG

第8回 校長BLOG

令和元年度 第64回卒業証書授与式(3月2日実施) 校長告辞より

まず、皆さんにお詫びすることがあります。それは、今般の新型コロナウイルス感染症への対応のため、この卒業式を大幅に縮小せざるを得なかったということです。在校生も皆さんをお送りしたいと思って準備してきましたし、東京学芸大学の副学長をはじめとする先生方、泰山会役員の皆様、同窓会辛夷会の役員の皆様、学校評議員の皆様も参列してくださりお祝いしてくださることになっていました。さらには、附属世田谷中学校、附属竹早中学校、附属小金井中学校の各校長先生もご参列くださる予定でした。これらの方々からは、旅立つ皆さんに、くれぐれも頑張っていくようにとの、励ましとお祝いのお言葉を頂いております。そして、何よりも今日の日を喜び期待していた保護者の方々です。このようなことになってしまいましたが、皆さんが帰宅したら、是非、保護者の皆さんに、今日まで育てていただいた感謝を告げてください。気持ちは言葉にしてこそ伝わるものです。

さて、卒業生の皆さん、卒業、おめでとう。

皆さんは、私の同期生でした。私は、三年前の四月三日に学長より本校校長の辞令を頂き、四月六日に入学式で皆さんを迎えました。五月のこどもの国でのバーベキュー遠足、体育祭、林間学校ではただ一つ妙高山に登れなかった期として涙をのみました。皆さんが懸命に部活動に取り組む姿も目に浮かびます。二年生での学習旅行では、ソウルに行き、戦争博物館や新聞博物館の見学を選んだグループと行動を共にしました。知的好奇心旺盛な姿に、流石は附高生と思ったことでした。三年生での辛夷祭では、完成度の高い感動的な芝居を見せてもらいました。皆さんと共に歩んだ三年間は楽しく刺激に満ちた年月でした。

この三年間を通じて、皆さんは学問の基礎、学問の学び方を身に着け、自ら運命を切り開いていく生きる力を獲得しました。これらの力と経験は、今後の皆さんの危機の時に、皆さんを支え元気づけることと思います。

危機と言えば、今まさに日本社会は危機にあります。新型コロナウイルス感染症はここ一週間が正念場とのことです。このあたりはグローバル化の影の部分なのですが、感染症の伝播もグローバル化しかつ急速です。私たちは、過度に恐れることなく、合理的な判断のもとで、感染症に適切に立ち向かっていかねばなりません。

船出に当たっての危機の状況は、九年前の東日本大震災のことを思い出させます。あの時も多くの高校では卒業式を延期する等の措置を取りました。しかし、その中で、卒業生たちは、自分達が郷土を日本を立て直すのだという強い気持ちを持つようになりました。新型コロナウイルス感染症をはじめ未知の感染症を予防し治療するためには、医学を中心として生物学や化学の研究発展が必要です。さらには、危機において社会を混乱させないよう、経済学や法学をはじめとした社会科学の発展が必須です。ここにこそ、皆さんの出番があります。本校で学んだものをさらに発展させて、他者のために有意義なイノベーションを引き起こし、社会に貢献してください。本校の本物教育は、まさにそのためにあります。是非、ピンチをチャンスに変えてください。

そして、荒波の航海に疲れたら本校を思い出し、本校に立ち寄ってください。附高は、いつでも皆さんの良き風待ちの港でありたいと願っています。

さて、皆さんに勧める最後の一冊。イギリスの作家ダニエル・デフォーのロビンソン・クルーソー。そう、あのロビンソン、無人島に漂着し二十八年間の苦労の後、無事に故国イギリスにもどった男の物語です。皆さんの多くは、子供向けになった本で読んだのではないでしょうか。しかし、この小説はジャーナリストであり小説家であるデフォーの代表作であり、カール・マルクスやマックス・ヴェーバーが、その著書で起業家精神の象徴と評価している大変な代物です。無人島で、わずかな資産を効率的に使い成果を出す。山羊を飼ってバターやチーズを作り、穀物を栽培しパンまで作ってしまう。克明な日記をつけて長期的短期的な目標を管理する。勤勉でいて誠実、そして楽観的。まさにイノベーターであり理想的企業家です。マルクスやヴェーバーは簡単には読めないがロビンソンなら面白く読めます。是非、ロビンソンで資本主義の精神を学んでください。

結びに、卒業生の皆さんのさらなる成長と発展を祈念し、式辞といたします。

 

Bon voyage