第5回 校長BLOG
変化(グローバル化?)と揺り戻し(アンシャンレジーム)または大山鳴動して鼠一匹
再度言及する。英語民間試験(4技能)の導入延期に続き、数学と国語の記述式問題導入も見送りが決まった。思考力、判断力、表現力、重視への方向ではあるが、「形式的」な改革はほとんどなくなった。現状では、2年生はもちろん、1年生も同様のようだ。
本校の多くの生徒は、基礎基本をしっかり身に着けた上での迅速な処理力(共通テスト)と、しっかり考えて記述する力(個別試験)の両方が必要、即ち現状とあまり変わりない。3年生は、万が一浪人したらどうしようかと気にしていたかもしれない。2年生はまさに渦中の学年だったので、その心配はひとしおだったことだろう。
しかし、英語において、「書く」ことと「話す」ことも重要であり、国際社会で活躍するためには必須であることは変わらない。同様に、思考力、判断力、表現力とその具現化したものとしての記述力が社会において増々必要となっていることも変わらない。どちらも改革が必要なことであったが、その方法(戦術)に些か問題があったということだろう。大学受験という目先のことだけを考えても、現状でさえ、個別試験対応として英語における「書く」力と該当教科での記述力とは是非とも必要である。努力してきた「変化への対応」の勉強の成果を発揮するのが、共通テストと個別試験の両方か、個別試験のみかの違いであり、生徒の皆さんは、淡々とかつ自信をもって対応すればよい。
高大接続改革の混乱状況に振り回された生徒諸君には、我々大人の紆余曲折のために迷惑をかけ、大人の一人として、反省し、お詫びする。
ところで、改革と言えば、ここ数年の反グローバル化の世界的な動きがいよいよはっきりしてきた。その象徴的な動きが、ブレグジットとトランプ大統領である。イギリスではジョンソン首相の保守党が大勝し、もうブレグジットに歯止めはかからない。そもそも保守党と労働党との差異は、市場重視(保守党の小さな政府)か分配重視(労働党の大きな政府)かであったはずなのに、今回の選挙では対立軸が変化して、労働党のグローバル化(公平な競争の重視)か保守党の反グローバル化(既得権重視)かということになり、労働党支持だった労働者がグローバルな競争を嫌い保守党支持となったというふうに私は考える。トランプ大統領も、「自分の国が最優先」という発想なので、就任当初は共和党穏健派やメディアも批判的であり、長くはもたないと言われていた。しかし、今では少なくとも表面上は共和党が党を挙げて全面的に支持しているし、アメリカ国民の半数近くが彼を支持している。地球規模の温暖化対策を考えるより、明日の私の仕事を重視するということだろう。
前にも言ったが、まさに「大衆の反逆」の時代である。わずか5、6年前にはグローバル化の波が停滞するなど考えられなかったのがこの状況である。日本とその周りの環境も例外ではない。
このような状況下で、我々一般人がするべきことは、冷静に情報収集をして、しっかりと時代と社会を読み解く力の育成を図り、自分の日々の責務を果たすことである。こんな時こそ、「職業としての学問」、「学問のすすめ」の実践をすべき時である。
今月の1冊、加藤陽子著、「それでも、日本人は「戦争」を選んだ」、新潮文庫。東京大学の日本近現代史専攻の学者が、神奈川県の「栄光学園」の生徒に5日間にわたって、日清戦争から太平洋戦争までを語った講義をもとに作られた本である。昨年度、君たちへの特別講義をもとに池上彰先生が東南アジアについての本を書かれたのと同様の成り立ちだ。特に客観的・合理的にはやるべきではなかった太平洋戦争に何故突入したのか、単に戦争はいけないことだからやるべきではない(この考えが最も大切であることを認めつつも)ということでは終わらない議論がスリリングに展開する。理系の諸君にこそ読んでほしい本である。